片舷3人ずつの釣り客、その船は小さかった。

畳まれてからしばらく経っているのだろう、クセが付き強張っていたスバンカーを張る時、バリバリと音を立てながら、溜まった雨水と一緒に何やら土のような物がポロポロと落ちてきたのだった。

それを意に介しもしない、かなり年老いた船長は、ロープをグイッと引っ張り、木でできたマストにスパンカーを張り終えた。


これはある釣り大会での出船前のシーンなのだが、出船の合図と共に港を出る船々を横目に、その年老いた船長は、経験からの、自分しか知らないポイントへ向かっているのだろうか、間反対に舵を切り、1人逆方向へ船を向けたのだった。

それからが凄かった。

幅も狭く、船縁も低いその船、強めの風を横田に受けながら走るのだが、かなり角度で船が傾いている・・・

風下側では、低い船縁が、時折海面スレスレになりながら、風を受けている側の船縁からは絶えず飛沫が入ってくる状態で、同船した友人はそれを「片輪走行」と、帰りの車中で語っていた。


さて、そうやってしばらく走ることポイントに到着、早速釣りをするのだが、1時間程釣って船中1匹しか上がらなかったのだった。

自信のあるポイントであっただろうが、この低調さに船長は移動を決意、元来た方向に進路を取り、港前を通り過ぎ、大方の船が釣っているポイントに向う筈なのだがその前に・・・?

船を風に立てて、1人何かをしていて中々船を走らせない船長・・・?


見ていると船長は、操舵室下の機関場(エンジンルーム)へ入って行っては戻ってくる。

その次には、5リットルは入るオイルジョッキに8分目ほど、オイル缶からをオイルを注ぎ、それをもって機関場へ・・・

上がってくるとオイルジョッキは空っぽ・・・。

「これでまだ走れる」とニヤリと笑い、今度は逆サイドの片輪走行でしばらく、ヒヤヒヤする航行が続いたのでした。



その時の大会結果は・・・、聞かずもがな、です・・・(撃沈)